近年、日本においてもインターンシップをはじめとした就業体験の機会は増加してきましたが、欧米などに比べるとその数はまだまだ少なく、学生が初めて社会に触れ、「働くこと」や「自分の将来」について考えるのは就職活動時期という場合がほとんどです。

また、現在実施されているインターンシップも、その多くは特定の企業や業界に対象を絞ったプログラムが中心で、参加者も大半が就職活動を目前に控えた大学3年生というのが現状です。

しかしながら、これから何十年と働くかもしれない業界や企業を選択するのに、全く何も情報も持たない状態の学生が3年生時に初めて就業体験を行ったとしても、多くの場合は就職活動までに「本当にやりたい事」を見つけるための時間が足りません。

ましてや、就職活動がゴールになっている学生にとっては、3年生時に参加するインターンシップは企業に対する自己PRの場と化してしまっている事も少なくありません。

だからこそ、私たちは大学1年生に「キャリア教育」を提供する「キャリア大学」を創りました。

「キャリア教育」とは何か。

私たちが考える「キャリア教育」とは、特定の企業や業界に的を絞った就業体験ではなく、もっと前段階のものとして、就業体験を通じてさまざまな業界を知り、「キャリア観」を醸成するための教育です。

すなわち、「世の中にはどんな仕事があり、どんな社会的役割を担っているか。そこで働く人は、どんな夢、やりがいを持って仕事に取組んでいるのか。」を知ることで、学生が「夢を持って働くとはどういうことか」、「やりたい事は何か」を自分自身で考える。そのように考える「きっかけ」をつくること自体が「キャリア教育」だと考えています。

また、「キャリア大学」で開催する授業は、企業が採用活動の一環として行う「企業説明会」とも全く異なります。それは、「キャリア大学」の授業が「教育」を目的としているからです。
ある意味、「企業説明会」も企業の事業内容を知るという意味では、「学び」はあります。
その点では、「企業説明会」も一種の「キャリア教育」ではないかと思われるかもしれません。しかし、私たちはこれを「教育」とは呼びません。

なぜなら、私たちは、「教育には利害関係があってはならない。」と考えるからです。

例えば、「企業説明会」という場は、企業にとっては「採用」、学生にとっては「就職」という、「教育、学び」以外の双方にとってPRしなければならない利害関係が発生してしまっています。

しかし、本来教育というものは、教える側には「“見返り”より“育てる”という気持ち」、教えられる側には「“相手にどう思われるか”より“その場でいかに多くのことを学ぶか”という姿勢」が求められると思います。

だからこそ、私たちは利害関係の発生しない大学1年生を対象としました。
企業が採用PRをしても、学生が自己PRをしても、採用活動や就職活動はずっと先であり、ほとんど意味がありません。だからこそ利害関係がなく、企業による学生への「教育」というものが存在し得るのです。

また、大学1年生という早い時期に様々な世界を知り、ぼんやりでも「自分のやりたいこと」や「ロールモデル」を見つける事ができれば、その後の大学生活の過ごし方も充実したものになるのはないでしょうか。

「将来の自分」をイメージしながら、今できる事を一生懸命頑張る事こそが「キャリア観の醸成」のために一番必要な事であり、早い段階から時間をかけて行うべきものだと思います。

また、就職活動はこれから続く長いキャリアの中のたった点にすぎず、ゴールではないというキャリア観を持つことが、将来「自分が幸せと思えるキャリア」に辿り着くために必要な要素であると私たちは考えています。

高校生の頃には大学受験、大学生の頃には就職活動、という目の前にある大きなイベントに目を奪われるのは仕方がありません。しかし、ぜひ学生の皆さんには、「自分のキャリアは中長期的な視点で考える」という広い視野を身に付けてほしいと思います。

さらに、企業様におかれましても、「会社の利益を守る」ためには優秀な人材を確保すること、すなわち「採用」が重要である事は言うまでもありません。

しかし、畑に実った作物をただ取り合っても、そもそも良い作物がなければ意味がありません。本当に必要なのは、良い作物が「育つ」土壌を、社会全体として手を取りあって創る事です。

企業が「採用」というものだけに囚われず、産業界が一体となって中長期的に「人を育てる文化」が浸透すれば、きっと学生は今以上に社会に出て輝き、日本経済は活性化すると私たちは信じています。

「キャリア大学」は、このような私たちの理念にご賛同頂いた企業様のご協力によって成り立っています。
しかしながら、現在の参画企業はまだ50社ほどで、初年度は1,500名程度の授業の定員枠に25,000名もの応募があり、ほとんどの学生が参加できない状況で、圧倒的に企業様の数が不足しております。

是非、一人でも多くの学生に機会が行き渡るよう、企業様に「キャリア大学」へのご参画のお願いをするとともに、参加学生には、企業様が使って下さる貴重な時間を無駄にしないように授業に真剣に臨んでほしいと思います。
社会に出て学生の皆さんが輝くことが、授業をして下さる企業様への最大の恩返しです。

私たちは、「キャリア大学」が「社会が一体となって若者を育てる文化」が創られる「きっかけ」になること、そして、将来「キャリア大学」が特別な場所ではなく、日本各地の企業で「教育」が行われる、そんな日が来ることを願っています。



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